未完の名作 それは舞い散る桜のように 感想レビュー
「恋の魔法、なんてよく言うけどさ、あれって実に言いえて妙なのね」
「その人のちょっとした仕草を、ある日気が付いたらいいなって思ってる」
「一般にそれを恋って呼ぶわけだけど、それって結局のところただの勘違いよね」
「だからいつかその思い違いに気が付くわけ。そしたら」
「はい、恋の魔法はおしまい」
いつかは書こうかと思っていた作品。
この手の作品は書くか本当に悩んだのですが、悩んだあげくにやはり書いています。
この作品は広く言うならばADV、ノベルゲーム、狭くしたらばギャルゲー。
本当のことを言えば「ギャルゲーのその先」
そんな作品です。
察した方は自分が帰るべきか判断してください。
今作のレビューです。
それでは行ってみましょう。
今作最大の特徴は「未完成」という点でしょう。
本編の伏線回収のシナリオを会社の社長が「削ろう」と一声でなくしてしまったのが原因。
当然の如く製作チームは大反発、しかし社長命令によってこの作品「それ散る」は未完成のまま発売されてしまいました。
ですが、この作品はそれでも十分な程に魅力的な作品でした。
完成品として発売されても評価が良くない作品は沢山あるこの世の中で、未完成ながら高い評価を得た今作。
発売は2003年。
そうおうに絵柄は古いですし、時代を感じさせる物が多々あります。
設定はよくある学園物。
その上未完成の今作ですが未だに完成品を待っているユーザーもいます。
私もその一人です。
作品の内容に踏み込みます。
ここからはネタバレを含みます。
この作品のテーマはと聞かれたら「失恋」だと思います。
大まかな流れはヒロインは全員同じ。
交流を繰り返すことで主人公とヒロインは両思いになり、恋人の関係になる。
そして、
ヒロインは記憶を失う。
主人公は失恋を経験し、思い悩む。
最後には記憶が戻ってハッピーエンド。
という作品です。
近作の魅力は沢山あります。
作者の文章が私好みだったのもあるが、非常に読んでて楽しい。
キャラクターは非常に個性的。
ほとんどのシーンは複数人でしょうもないことを言ってるだけ。
それでも読んでて楽しい。
ヒロインは皆魅力的。
学校のマドンナ、クラスメイトの悪友、お隣さんの後輩幼馴染、ドジでちっさい先輩、一途に主人公のことが好きな後輩。
それぞれの主人公や周りの人たちとの関係が魅力的でした。
こういう作品では軽視されがちな男性キャラも魅力的でした。
担任の鬼教師
元ヤンの男性保険教員
一途なサッカー部員
みんなに見せ場があり、皆にしょうもないシーンがあります。
元ヤンの「悪いことするなとは言わないが、カッコ悪いことはするな。」っていう台詞はめちゃくちゃ好きです。
ノベルゲームはシナリオが一番大事です。
この作品は失恋という一大イベントがあります。
別に事故にあったとかそんなこともなく、突然まるで魔法が解けたように記憶がなくなります。
当人達が愛し合っていても関係などないのです。
記憶の消え方はヒロインによって違います。
「恋人」だった記憶を忘れて「友達」になり、「友達」だったことも忘れて「クラスメイト」になる。
記憶を失っては取り戻し、徐々に取り戻せなくなり最後には全てを忘れるヒロインもいます。
周りのヒロインや友達はもちろん心配します。
「喧嘩でもしたのか??」
「ちょっとね」
事情なんて教えられる訳ないし、教えても理解出来ない。
その状況をただ必死に耐えてる主人公が本当に見ていてきつかった。
序盤からずっと面白い主人公、「桜井舞人」
こういう友達がいればいいなぁと思わせてくれるようなキャラクター。
そんな彼がただただ耐えているのが本当にきつかった。
私が一番好きなシーンは恋愛の定番「クリスマス」のイベントです。
既にヒロインは記憶を失ってます。
外はイルミネーションとカップルがごった返している。
おまけに雪まで降ってきてホワイトクリスマス。
一人の主人公は部屋で引きこもっている。
その時玄関のチャイムが鳴ります。
何回もチャイムが鳴るので仕方なく扉を開けると
「遊びに来たぞ」
玄関に居たのはヒロインではなく、親友の山彦。
山彦は休日はいつも女性と遊ぶイケメン。
ただ遊びすぎて彼女が出来ない。
今年は彼女作ると豪語し、本当に彼女を作ることに成功する。
「去年はお前と二人っきりのクリスマスだったからな。
今年はお前の顔を見ずに済みそうだ。」
なんてことを言っていた男です。
日付は12月24日 クリスマスイブ
外はイルミネーションとカップルがごった返している。
「とりあえず寒いから上がらせてくれない??」
そう言いながら許可も取らずに部屋に上がってくる山彦。
舞人はいきなりのことに動揺するが部屋に上がる山彦に、自分とプレイヤーが思っている疑問を投げる。
「お前、今日何の日か分かってるのか?」
「ああ、クリスマスだろ??」
それがどうした??と何事もないかのように答える山彦。
「お前、彼女はどうしたんだよ?」
彼女って単語は言いたくないが、だからこそ尋ねる舞人。
「彼女??あー、お前バカだな~」
「彼女となんかいつでも遊べるんだから、たまには男二人でクリスマスを過ごすってのもいいもんだろ??」
この台詞、このシーンが一番思い出に残ってます。
ハッキリ言うと大好きなシーンです。
「たまには男二人でクリスマスを過ごす。」
さっきも言いましたが、前年のクリスマスは二人きりでした。
彼らは親友です。
日ごろから一緒に遊んでます。
このゲームの冒頭のシーンでは女子学生に人気のクレープ屋に二人で一緒に行くシーンから始まります。
そのぐらいの仲良しです。
「彼女となんかいつでも遊べる」
遊べません。
クリスマスの予定をドタキャンする彼氏です。
しかも理由は友達と遊ぶためです。
許してくれる人なんてそうそういません。
恋愛経験なんざありませんが、そのぐらいは分かります。
言ってること全部嘘です。嘘しか言ってません。
あまりにも分かりやすい粗末な嘘。
全部舞人の為の言葉です。
舞人の為の嘘です。
彼らは親友です。
嘘なんて当然見破ります。
「なぁ山彦、」
「ありがとうな。」
でも、それでも、今のボロボロの舞人には一番の救いです。
ハッキリ言うと山彦のやったことはクズ以外の何者でもないですが、彼の行いに舞人とプレイヤーが救われたのは事実です。
「いいっていいって、それよりどうする?ホールケーキでも買いに行くか?」
「男二人でホールケーキはないだろ。」
そこからはいつもの彼らです。
結局二人はイルミネーションとカップルの波に突っ込んでいき、男二人で肩を組んでバカ騒ぎをします。
いつもの彼らです。
この作品は記憶喪失の後は非常に苦しい展開です。
それを乗り越えられたのは紛れもなく山彦のこのシーンがあったからだと思ってます。
今回は以上です。
大好きな作品の大好きなシーンを纏めるのは楽しかったです。
一つ問題があるならば、本当に好きなシーンなので思い出すと泣きそうになるんですよねw
涙をこらえながらブログの記事を書いたのは初めてでした。
いつかリメイクが発売されるのを楽しみにしています。