新谷監督が逝く猪威悪高校栄冠ナイン日記 2年目その8裏 パワプロ2020 秋
前回のあらすじ
ドラフトで木川、渋川、永井の3人が指名された。
初めてのプロ選手の誕生だ。
夏の終わり。
明確な区分なんてないのだろう。
涼しくなったら夏の終わり。
なんか急にいつも気づいたら冬、みたいな感覚。
だが野球には明確な終わりがある。
少なくとも3人はしっかり、夏の終わりを感じていただろう。
夏が終わった後
渋川は悩んでいた。
「・・・」
最後の試合は5回10失点KO。
どうしようもないほどの大炎上。
「エース」の投球内容ではなかった。
渋川は考えていた。
「・・・」
もしかしたら考え始めた段階で答えは出ていたのかもしれない。
野球をやめる選択肢なんて最初からなかった。
選択肢は二つ。
プロに進むか、大学に進むか。
その二つだけ。
答えはきまった。
ピピピ~
「ん??」
電話だ。
掛けてきたのは、木川??
「もしもし」
「渋川、聞きたいことがあるんだけど、志望届、出す??」
「ああ、今ちょうど出すことを決めたところだ。そっちは?」
「俺も決めた。だから連絡したんだ。」
「渋川、志望届の許可を貰いに行こう。」
猪威悪高校の野球部は外部監督を雇っている。
ようするにそれが新谷だ。
ただあくまで外部の人間ということで、実は高校の教員の中に顧問の先生がいる。
それが
「・・・」
「・・・」
二人揃って緊張している。
何せ
「校長室」
普段なら絶対来ることがない場所の前に立っているのだから。
「なんで顧問が校長なんだ・・・」
「ほんとだよ、一応確認も取ったけど確かに校長が顧問なんだ。ここに一人で来るなんて嫌だろ?だから連絡したんだ。」
「なるほどな。」
「・・・」
「・・・」
嫌な静寂、マウンドに上がる時は緊張しないけど、ここは緊張するな。
「でもまぁ、行くしかないよな。」
「だね、」
一歩前に出る。
右手を上げて
コンコン
「・・・どうぞ。」
「失礼します。」
他のより大きく重い扉を押して中に入る。
「3年の渋川です。プロ野球志望届の提出の為、校長先生へ許可を・・・」
え???
どういうことだ??
「え??」
横で渋川も驚いている。
そりゃそうだ、だって、いや、
どういうことだ??
思えば確かに、この高校に入学してから
一回も校長を見たことがなかった。
だから知らなかったんだ。
「あなたが校長、ですか??」
「そうだよ、始めまして、渋川くん木川くん。」
「私がこの高校の校長の・・・・」
帰り道
二人で学校から出てきてかなり離れたところで木川が話しかけてきた。
「なぁ、渋川、あの人・・・」
「ああ、見間違いかと思ったが、あの人は、校長は。」
数日前
「ふぁ~ぁ」
今日もいい天気だ。
お日様は元気にその存在を主張している。
毎日毎日
「働き者だねぇ~」
そういいながら自分の教室に入る。
何人かが俺の顔見た。
「・・・」
う~ん、
空気重。
まぁ、それもそうでしょ。
自分最後の夏の大会で、体調不良で試合に出れなったキャプテンが最後代打で出て行って、綺麗に夢を終わらせるダブルプレーで試合を締めたのに声なんてかけにくいよね?
「そう思わない篠田?」
「思ってるなら話かけてこないでよ。」
「それもそうだ。」
結構な人数が試合を見に来ていたらしい。
そのおかげで俺の扱いは腫れ物。
非常に居心地が悪い。
しかも俺何気に高校生活野球しかしてこなかったから、何もすることないときた。
「どうしよっか。」
「いや、私に聞かれても・・・」
「他に話せるの、いないんだよ。」
「まぁ、それは分かる。」
(なんか抜け殻みたいだな、永井くん。)
(無理もないけど)
「・・・」
とりあえず窓の外を見てみる。
外はいい天気だ。
おひさまは今日も仕事をしている。
毎日毎日ご苦労様です。
空を眺めるのって意外といいのかもな。
青い空白い雲、
思い出すのは・・・
「はぁ」
「・・・」
ピンポンパンポ~ン
「3年生の永井くん、今すぐ職員室まで来てください。」
「・・・んが??」
俺なんかしたっけ?
しょっちゅう遅刻はしたけれど
クラスメイトからの視線が突き刺さる。
「なんか分からんけど、いくか。」
立ち上がり廊下に出る。
階段を下りて職員室へ。
職員室前には先生がいた。
横をすり抜けてドアを開けようとする。
「永井、お前が入るのはその扉じゃない。」
「んへ??俺呼ばれましたけど?」
「お前を呼んだ人は職員室にはいないんだよ。」
「んじゃ、どこに?」
「んで、ココ」
校長室
「俺そんなにやらかしたっけ??」
授業中いつも寝てるけどスポーツで結果出してたからお咎めなかったけど・・・みたいな??
「ちょいわるの範囲だからセーフ、みたいな話ないのかな~」
「ま、いっか」
コンコン
「どうぞ。」
「失礼します。」
扉を開ける。
「・・・・・・ん・・・え?」
「始めまして、この学校の校長の・・・」
「新谷だ。」
その後の話は簡単だった。
プロを目指さないのか?
君は野球が好きなんだろ。
最後の試合悔しくないのか?
などと好き勝手に言ってくれた。
ムカツクなぁ。
「どうしたの??」
授業をいつもどおり寝て過ごし、起きたところに篠田が話しかけてくる。
「何が??」
「なんか、スッキリしてない、顔。」
「・・・かもね~。」
翌日
「失礼します。」
「校長先生様の提案どおり、盛って来ました~。」
「ハイ、どうぞ。」
「キミならそう言うと思ったよ。」
「そうですか、それでは、失礼します。」
全く分からんなぁ。
世の中って本当に。
ま、野球しかしてこなかったからそりゃそうなんだけどね。
ドラフトでは無事に3人とも選ばれた。
この3人しか校長には会っていない。
永井が一人ふざけながら言う。
「誰なんだろうね、新谷ってさ~」
渋川が笑う。
「この高校は本当によく分からないな。」
今回は以上です。
最近気づいたんですが、書いた文章たまに消えてるんですよね。
最後のほうの文章変になってるかもですが