新谷監督が逝く猪威悪高校栄冠ナイン日記 一年目その6 パワプロ2020 冬
前回のあらすじ。
秋の大会でも気持ちよく勝って、その後あっさり負けた。
「集合!」
ナイン達が集まってくる。
月一の練習指示だ。
「まずは秋大会の敗戦は非常に悔しかった。完全な実力負けだ。 特に守備走塁の差は激しかった。単打長打の差があまりにも激しかった。そこで今月の練習をみんなに指示する。しっかり聞くように。」
「今までどおり。以上!!!」
((((ズテン!!)))
「ちょ、ちょっと監督!!」
「どうした篠田?」
「完敗したのは守備走塁だと言っていたのに、練習は打撃練習ってどういうことですか?」
ナインも同じ疑問だろうな。
「守備走塁を鍛えてもこの成長スピードではどうなるか。個性のない微妙な選手の集まりになるだけだ。」
「それなら多少守備が出来なかろうが、足が遅かろうが、一発狙いの打撃ゴリラを作るしかないんだよ。」
「俺達は弱い。だからこそ、打つしかない。」
「負けたのは守備走塁が出来なったから。確かに点を取られたのはそうだ。」
「それはあくまで負けた理由だ。勝てなった理由とは違う。」
「もう一度言う。勝つためには打つしかない。向こうに4点取られたら俺達は5点取るしかない。」
「だから、バットを振ってくれ。」
はい
「おい皆、返事は基本だろ。監督の指示が不満なのか??」
「じゃ、指示通り、バットふってきま~す」
永井がへらへらしながらバットを持って走っていった。
釣られるように他のナインも走っていく。
皆でバットを振りはじめた。振るしかなかった。
「・・・・」
バットを振る野手陣を一人静かに見つめていた。
渋川だ。
(勝てなったのは打てなかったから。つまり負けたのは俺の責任だ。)
(抑えればいいんだろ。野手の正面にボテボテのゴロを打たせればいいんだろ。)
(やってやる・・・!)
渋川が一人静かに燃えていた。
練習は続いた。
秋を終えた俺達は寒空の下練習を続けた。
予想通りドラフト会議で選手は指名されず、俺達が頑張るしかないと気持ちを引き締めた。
「監督、失礼します。」
「ん?どうした篠田??」
「サボりにサボっている監督に新しいお仕事です。」
「スカウトに行きましょう!!」
「そいつは噂の新システムじゃねーか・・・!」
「???」
スカウト
11月から2月末まで行えるもので、中学生の選手にうちに来てくれるようお願いするという訳だ。
最初は地元しか出来ないし、有力選手には断られるが、学校が有名になればそれも変わっていくというものだ。
「まだまだ弱小ですから、最初は県大会出場選手とかにした方がいいですよ。全国レベルの選手だと引く手数多ですから断られちゃいます。ただ選手も人間ですから誠意を見せると来てくれることもあります。」
「なるほどな」
「大体ルールは分かったZE!!」
「それで誰をスカウトしに行きますか?」
リストアップをしてくれているのは助かる。
しかもポジションや利き腕、中学での成績や能力まである程度纏めているとは
「将来いい嫁さんになるだろうねぇ」
「セクハラになっちゃいますよ監督?」
「気をつけます」
悩んだ挙句決めた。
「よし、コイツの勧誘に行こう篠田。」
「え!? この選手全国大会出場のトップ選手ですよ!!?」
「根気と情熱、そして誠意があればいけるはずだ。何心配するな。勝算ならある!」
「始めまして葛西くん。猪威悪高校野球部監督の新谷だ。是非うちの野球部に来てほしい。君ならば即戦力間違いなしだ。」
「勝てるチームじゃなきゃ僕は行きませんよ。僕の目標は甲子園、その先はプロですから。」
「そういうと思った。全国出場クラスの選手はそういう熱い思いを持っているのは当然だろう。だから弱いうちに来てもらう為に、俺は誠意を持ってココに来た。」
「名選手は言っていた。誠意は言葉ではなく・・・
金額だぁ!!!!」
一万円バン!!!!
カキンッ
「ふっつうに賄賂で犯罪です!!すみません葛西くん!今日はこのバカ連れて帰るで猪威悪のこと嫌いにならないでね~!失礼しましたー!!!」
ドアバタンッ
(カントクバカー!!)
「・・・」
「流石にあそこには行かないかな」
葛西からの印象はよくなかった。
「こんにちわ葛西くん。また来たよ。」
2回目がすぐに訪れた。
「えーっと、前も話したと思うんですけど、行きません。そんな簡単に気持ちは変わりませんよ。」
「そうか、なるほどな・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「何かいいましょうよ、監督。」
「何も出てこない。」
あっさり二回連続で断られるとはな。
正直思ってもなかったよ。
「また今回もダメだったってナインに報告するのか」
「このままだと誰も来てくれないですよ。そろそろ違う人に、来てくれそうな選手に変えませんか?」
「嫌だね。」
「なんでですか?」
「俺は葛西に来てほしい。葛西がいいんだ。ここで引くのも性に合わないし、うちには絶対必要な人材だ。」
「どうしてそこまで・・・」
「葛西は全国出場経験がある、しかもキャプテンだった。外野の層は薄いし、ああいう選手が一人でも来てくれると弱いうちが変われると思うんだ。」
「うちに足りないもの、それをあの子は持ってるんだよ。」
「だからまた来る。」
「はぁ、こうなったら監督は殴っても止まらないですからね~」
「分かってきたじゃん。」
帰り道に笑い声二つ。
そして、
「・・・・」
視線が一つ。
「お願いだ。葛西。猪威悪に来てくれ。もう時間はないから今日が最後かもしれない。だから・・・」
「何度も言いました。行きません。」
「確かに何度も聞いた。だから・・・」
席を立つ。
膝、指、額、全て地に伏せる。
「んなっ!」
「監督!?」
「オタク男子新谷、お願いごとのやり方は駄々こねるか、土下座しか分からん!!なのでこのままお願いします!葛西くん、キミが必要だ!!うちに、猪威悪に、来てください。お願いします!!」
・・・
・・・・・
静かだ。
十個下の人に土下座するとは思ってなかった。
漫画の見すぎだろうか。
でも、誠意の見せ方ってなんなんだろうね。
この年になってもこれが正解って言い切れないよ。
「ぷっ」
顔を上げてしまった。
音のありかを探す。
葛西が、笑ってた。
「ハハハ、面白いことをしますね。いいですよ、行きますよ。」
「え、」
「本当に!??」
声が出なかった俺の代わりに篠田が声を出す。
「ただし、一つ条件があります。」
「甲子園、プロ、その舞台に立たせてください。」
「・・・・・・」
「出来ませんか。」
「フッ、土下座してるからって下に見てるんじゃないぞ。」
立ち上がる
目を見て話す。
「立つだけじゃつまらないだろ。勝つんだよ。」
「それでいいです。」
葛西との関係は良好だ。
後は来てくれるのを待とう。
今回は以上です。